研究概要 |
2009年末に20例の胃原発T細胞リンパ腫のまとめを行った(Histopathol 2009,55:641-653)。胃T細胞リンパ腫の特徴は、腸管症関連T細胞リンパ腫(EATL)とは異なる臨床像、細胞形質を有していることが分かった。EBV感染が認められず、東アジア型CagA遺伝子は10例中3例に認めるのみであった。今回、小腸のEATL24例の臨床病理的検討を行い、その臨床病理、遺伝子学的背景を明らかにした(Histopathol 2011,58:395-407)。日本のEATLは、欧米に認められるCoeliac病を基礎疾患としたEATLと全く異なる組織型、細胞形質を有することが確認できた。HLAの検討では、欧米例にみられるDQB1*02の異常はなく、CGH法での染色体の検討でも、Coeliac病、欧米EATLにみられる9q33-35の増幅がなく、8q2(c-Myc),Xp,Xqの領域の増幅が高率にみられた。また、EBVの感染が6例(25%)であることを確認した。また,本群には、典型腸管症様病変が半数に認められることを確認して検討中である。日本人の胃がんにおいては、東アジア型H.pylori CagA,VacA遺伝子が高率に出現し、その刺激がSrc homology 2 domain-containing tyrosine phosphatase,SHP2)の高発現を引き起こし、上皮細胞を増殖させ腫瘍につながる機序がある。 胃悪性B細胞リンパ腫に関しては、MALTリンパ腫、びまん性大細胞性リンパ腫に分けて、その腫瘍組織において、H.pyloriのCagA遺伝子、VacA遺伝子の同定を行い、その陽性率を確かめた。また、H.pylori菌,東アジア型CagAに対する単クロン性抗体(TMDU-mAb,a-EAS Ab)を用い、実際の腫瘍組織においてH.pylori菌の分布、またリン酸化SHP2が腫瘍細胞にどのような状態で出現するかを確認した。この機序に関して、胃がんの陽性例との比較を行い、2疾患で異なるデータを確認した。腸管症様T細胞リンパ腫の背景には、典型腸管症様病変が半数に認められ、その1つの原因として約半数に東アジア型H.pylori CagA遺伝子が出現し、その刺激がSrc homology 2 domain-containing tyrosine phosphatase,SHP2)の高発現を引き起こしており、そのMAPキナーゼ活性を検討中である。
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