研究概要 |
小腸のEATL24例の臨床病理的検討を行い、その臨床病理、遺伝子学的背景を明らかにした(Histopathol 2011,58:395-407)。日本のEATLは、欧米に認められるCoeliac病を基礎疾患としたEATL、I型と全く異なる組織型、細胞形質を有することが確認できた。HLAの検討では、欧米例にみられるDQB1^*02は認めず、CGH法での染色体の検討でも、Coeliac病、欧米EATLにみられる9q33-35の増幅がなく、8q24(c-Myc)の領域の増幅が高率にみられた。また、EBVの感染が6例(25%)であることを確認した。その後、他の研究者より同調する疾患(EATL、II型)がアジアに群発するという報告があり、より明確に分布の違いが理解された。 本群は、小腸全体に病変が認められ、EATLの背景に腸管症様病変が認められることを確認し報告した。日本人の胃癌においては、東アジア型H.pylori CagA,VacA遺伝子が高率に出現し、その刺激がc-MetやSrc homology 2 domain-containing tyrosine phosphatase,SHP2)の高発現を引き起こし、上皮細胞を増殖させ腫瘍につながる機序がある。c-Metは7q31に位置するチロシンキナーゼ活性を持つ癌原遺伝子産物で、mitogen-activated protein kinase(MAPK)等を活性化する。先に示した8q24(c-Myc)はMAPK等の下流に位置し、核内増殖期G1からS期に働くcyclin Dに対し細胞増殖を促す。今回c-Metの遺伝子部位をFISHで確認し、先に示した8q24と共に7q31部位が高率に増幅した状態であることが確認でき、蛋白レベルでもc-Met、p-MAPK蛋白の出現が高率であることが解った。 EATLにおけるH.pylori菌の検討では、約半数において東アジア型H.pylori菌CagA遺伝子が認められた。上述のc-Metと同様にp-SHP2の高発現を認めており、高いMAPキナーゼ活性(pMAPK蛋白発現)を引きおこしている可能性が示唆された。また、CagA遺伝子に関しては健常小腸、大腸、小腸、大腸B細胞リンパ腫の多数例を検討に加えたが、EATLにおいてCagA遺伝子が有意に高く、背景として東アジア型H.pylori菌感染が何らかの誘因になっている可能性を見出した。現在、この結果をまとめている。
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