マイクロRNA(以下、miRNA)はタンパク質をコードしない約20塩基長の機能性小分子RNAの1つであり、これまでに様々な腫瘍でmiRNAの発現変化が認められている。本研究では胃がんの発症と関わるmiRNAを探索し、その発現制御機構の破綻についてエピジェネティックな面から解明することを目的とした。更に、胃がんで発現異常が認められたmiRNAについて、その下流標的遺伝子を解析した。まず、胃がん細胞株と非がん部胃粘膜上皮とのmiRNA発現の差をマイクロアレイで検索し、miR-212の発現が胃がんで低下していることを明らかにした。miR-212発現陰性がんに脱メチル化剤処理すると、その発現が回復したため、このmiRNAの発現にはエピジェネティックな変化が関与している可能性が示唆された。次に、胃がん細胞株に脱メチル化剤処理を行い、マイクロアレイ解析を行ったところ、miR-212を含む複数のmiRNAが発現上昇した。これらmiRNAのメチル化解析の結果、miR-181cは胃がん細胞のみならず、胃がん組織でも高頻度にメチル化が陽性であった。miR-181cの機能解析を行ったところ、このmiRNAは細胞増殖に関与し、K-rasやNOTCH4を負に制御していることが明らかになった。一方、SOX2やCDX2転写因子の発現制御には遺伝子メチル化が関与しているが、一部の症例ではメチル化陰性で発現も認められない場合がある。そのメカニズムを明らかにするため、miRNAとの関連について解析した。その結果、SOX2にはmiR-126a、CDX2にはmiR-9の発現が強く関わることがわかった。以上より、miRNAの発現異常は胃がんにおいて重要であることが示唆された。今後、これらmiRNAについて、数多くの臨床検体を用いて発現とメチル化を解析する必要がある。
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