担癌状態において、癌細胞は常に低酸素環境下に曝されており、癌細胞はこの低酸素環境に対し、様々な分子の発現を調節することによって適応している。しかし低酸素による免疫応答制御についての分子レベルでの報告は世界的にみてもほとんど見られない。本研究では、固形癌に共通して存在する低酸素環境における、宿主免疫細胞による抗腫瘍免疫応答の解析を行っている。特に低酸素環境下で発現誘導されるhERO1-Laによるジスルフィド結合形成能が免疫関連分子発現に与える影響を検討した。またdominant negativeとして機能する変異hERO1-Lα遺伝子導入細胞株を作製し、通常酸素分圧および低酸素環境におけるhERO1-Lαの免疫関連分子発現に関わる役割を検討している。本研究の成果により、癌のワクチン治療や血管新生阻害剤と免疫療法の併用に対する重要な知見を得ることができるものと考えられる。平成21年度では、hERO1-Lαのジスルフィド結合形成能に重要な役割を果たしている390番目、394番目、397番目のシステイン(C)をアラニン(A)に変異した変異遺伝子をクローニングし、これらを膵癌細胞株Panc1細胞に導入した。397番目のシステインを変異させた遺伝子導入株において、細胞表面上のMHCクラスI分子の発現が低下していることを見出した。また細胞内のMHCクラスI分子の蛋白量も減少していた。さらに興味深いことに、変異遺伝子導入株では酸化型MHCクラスI分子が野生型Pancl細胞と比較して著明に減少していた。この事実は、hERO1-LαがMHCクラスI分子の酸化すなわちジスルフィド結合形成に必須であることを示すものである。さらにhERO1-Lαは低酸素環境で発現が著明に誘導されることから、腫瘍環境における免疫監視機構において非常に重要な役割を果たしている可能性が示唆される。
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