【本研究成果】小胞体に存在するendoplasmic reticulum oxidoreductin 1(ERO1)-αは、正常組織と比較して、癌細胞では高発現していた。またERO1-αは低酸素で発現が誘導されるが、免疫組織学的検索により、腫瘍内の低酸素領域での発現増加を確認した。興味深いことに、大腸癌症例ではERO1-αの発現が高い腫瘍においては、MHC class Iの発現が維持されていた。このように腫瘍細胞におけるERO1-αの発現は、腫瘍細胞の免疫原性の維持に大変重要な分子であることが明らかになった。大腸癌細胞株SW480にERO1-αを強制発現させると、酸化型のMHC class I分子が増加し、細胞表面上の発現が増加した。一方、ERO1-αの発現をノックダウンすると、細胞表面上のMHC class I発現が低下し、細胞傷害性T細胞による認識が低下していた。さらに低酸素環境におけるMHC class Iによる抗原提示を検討する目的で、OVAを発現L細胞を用いて検討すると、ERO1-α発現増加に伴って特異的細胞傷害性T細胞による認識が増強した。さらにB細胞性白血病株を用いて、ERO1-αのノックダウンを行うと、MHC class II分子の発現と抗原提示が抑制された。このようにERO1-αの発現は宿主免疫監視機構に重要な役割を果たしていることが明らかになった。この細胞内機序として、ERO1-αはPDIの再酸化を介してMHC class Iおよびclass II分子内のジスルフィド結合形成促進に関与していることを明らかにした。 【本研究の意義】癌細胞におけるERO1-αの発現は、MHC class I/II分子の発現に重要な役割を果たしており、腫瘍の免疫原性を規定する因子となると考えられた。また低酸素環境にある腫瘍に対するT細胞応答の理解に重要な分子であると考えられた。
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