研究概要 |
平成22年度においては、平成21年度に得られた『他の上皮性卵巣癌に比して明細胞腺癌でmTOR-HIF経路が有意に亢進していた』ことから、明細胞腺癌培養株を用いてmTOR阻害剤(Rapamycin,エベルリムス)による本経路の阻害がもたらす影響について様々な分子生物学的手法を用いて解析した。 MTS assayおよびMIB-1 Labeling Indexによる解析から、mTOR阻害剤を培養時に添加したところ、薬剤濃度依存的に細胞増殖が有意に抑制された(p<0.0001)。さらに薬剤添加し6時間後に回収したサンプルを用いて免疫組織化学、Western blotting法、real time RT-PCR法によりmTOR-HIF関連因子のタンパクおよびmRNAの発現動態について解析を行った。その結果、上流のAkt、 p-Akt、さらにmTORの発現には変化を認めないものの、p-mTOR、下流のp-4EBP-1、 HIF-1α、 VEGF、 EPOの発現に抑制が認められた。一方で、HIF-1αの分解系に関与しているVHLは濃度依存的に発現の増加が認められた。これらのことから、mTOR阻害剤はmTOR-HIF経路の阻害に有用であり、本経路を通じた抗腫瘍薬としての効果が期待された。現在、上皮性卵巣癌を含む様々な癌においてHIF-1αの下流に位置する血管新生因子VEGF阻害剤bevacizumab(アバスチン)の臨床治験が行われているが、mTOR阻害剤はさらに上流で血管新生をコントロールするばかりでなく、他の腫瘍増殖因子の発現も抑制することから包括的な抗腫瘍薬としての可能性を秘めていることが実証された。 最終年度では、腹膜癌モデルヌードマウスや皮下移植マウスを用いて、mTOR阻害剤の抗腫瘍効果を既存の抗癌剤とのcombination assayによって検証を進める。また、mTOR-HIF関連因子のタンパクおよびmRNAの発現と予後との関連を分析し、卵巣癌治療の個別化に指針を示したい。
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