膵臓癌の発癌機構に重要な役割を果たすと考えられているヘッジホッグシグナル伝達を制御する因子として、SIX3(ヘッジホッグ発現自体を制御する転写抑制因子:Shhの上流因子)およびSIL(細胞内ヘッジホッグシグナル伝達に必須な細胞質蛋白:Shhの下流因子)に着目し、以下の成果を得た。 1、SIX3のShh発現に対する機能:SIX3を発現しShh発現のないヒト膵臓癌細胞株において、siRNA法によりSIX3遺伝子産物をノックダウンするとShh発現が見られた。これはSIX3がShh遺伝子に対して転写抑制作用を示したものと解せられる。しかしSIX3発現がなくShh発現のあるヒト膵臓癌細胞株を元にtetracycline誘導性SIX3発現株を作成したところ、この細胞株においてSIX3を発現誘導すると、Shh発現はむしろ増強することを見出した。 以上よりヒト膵臓癌細胞株では、SIX3に対する応答性が異なる可能性が示唆された。すなわち、SIX3発現・Shh非発現株では確かにSIX3がShh発現に対し抑制性に働いているが、SIX3非発現・Shh発現株にSIX3を強制発現しても逆にShh発現が増強することから、後者ではSIX3と共役し転写活性化する因子が別に存在しているものと考えられた。 2、Shh遺伝子プロモーター解析:文献上知られているShh遺伝子の臓器特異的エンハンサーを用いてレポーターアッセイを行った。その結果、Shh遺伝子転写開始点より約300kb上流にあるMACS1と呼ばれるエンハンサー領域がSIX3依存性レポーター活性抑制に関わっていることを見出した。 3、SIX3共役因子の関与:MACS1依存性Shh遺伝子抑制には、SIX3と共役する転写抑制因子TLE1およびHDAC1が関与することを見出した。
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