研究課題
本研究の目的は、従来から研究が進められてきた腫瘍内浸潤マクロファージ(TIM)と、近年提唱された骨髄細胞由来サプレッサー細胞(MDSC)の関係を整理することである。この目的を達成するため、本研究ではC57BL16(B6)マウス皮下に可移植性の大腸癌培養細胞株(MCA38)あるいは脳腫瘍培養細胞株(GL261)を移植して解析した。いずれの腫瘍組織から取り出したCD11b陽性細胞とも、細胞形態ならびにシャーレ付着性は単球系マクローファージとして矛盾しないものであった。さらに、これらのTIMが産生するサイトカインならびにケモカインとその受容体、あるいは膜表面抗原の解析では、MCA38、GL261のいずれに浸潤したTIMとも腫瘍抑制性マクロファージ(M1マクロファージ)に特徴的なIL-1β、TNFα、CXCL10、腫瘍親和性マクロファージ(M2マクロファージ)に特徴的なCCL22、CCL17、CD206が検出され、TIMの多彩性が明らかとなった。そこで、我々はTIMの性格は浸潤した組織内の環境に規定されると推定し、TIMの可塑性を検討した。MAC38から取り出したF4/80陽性TIMに抗原呈示樹状細胞への分化誘導因子として知られているGM-CSFを添加して培養すると、付着性のTIMが丸みを帯び付着性の低下した細胞に変化した。しかしながら、M1およびM2マーカープロフィルならびに細胞内シグナル伝達分子の発現に未処理TIMとの差は認められなかった。これはTIMがマクロファージへの分化に偏った環境にあるためと考え、F4/80陽性TIAをM-CSFRのsiRNAで処理後、GM-CSFを添加して培養した細胞を解析した。その結果M1、M2マーカープロフィルに著変は見られなかったが、抗原呈示樹状細胞への分化に必要な細胞内シグナル伝達分子であるSTAT1、STAT5、STAT6の有意な発現が観察された。残念ながらM-CSFRのsiRNAとGM-CSFで処理したF4/80陽性TIMと未処理TIM間にOVA抗原の提示能に有意差は観察されなかったが、TIMがMIあるいはM2マクロファージ、MDSCと総称される終末分化細胞ではなく、環境に反応して性格を変えうる可塑性を保持した細胞であることが明らかとなった。
すべて 2011
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International Journal Oncology
巻: 38 ページ: 1409-1419