クロトーが、脳脊髄液のカルシウム濃度を低下に抗して一定に保つ機能を介して、脳の興奮性がカルシウム濃度変動によって不安定になることを防ぐ重要な分子であることを明らかにする研究計画である。平成21年度は、計画の最初の部分を実施した。野生型/クロトー欠損マウスの個体で、血液のカルシウム濃度を急速に低下させてその反応を見るという方法を用いたが、従来用いられているキレート投与によるカルシウム低下法よりも低下効果の定量性に優れた直接希釈法を開発した。このカルシウム低下実験の結果としてクロトーが、その発現部位である腎臓、脈絡叢で、それぞれ、血液、脳脊髄液のカルシウム濃度を低下に抗して一定に保つ機能を果たしていることを示すデータを得た。脳脊髄液についてはイオン電極を用いたリアルタイム測定、血液に関しては時間をふったサンプリングでの離散的な測定をおこない、その機能が極めて迅速にカルシウム低下に反応していることと、その強さがかなり強力であることも判明した。腎臓、脈絡叢ともに、臓器自立的に急速なカルシウム制御をしているという報告はいままで無く、今回の発見は全く新規なものである。脳脊髄液のカルシウム恒常性は、まず腎臓で血液のカルシウム恒常性維持を行い、脈絡叢で腎臓では抑えきれなかった血液のカルシウム濃度変動(低下)を脳脊髄液に伝えないようにする恒常性維持を行うことで、二重の防御機構を備えていることが明らかになった。
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