研究概要 |
1.遺伝子組換えによりβ-galで標識されるAlb-Cre/ROSA26Rマウスの肝細胞を分離し,脾臓を介して肝内に移植する実験を行い,四塩化炭素,TAA,DDC,lithogenic diet,総胆管結紮,部分肝切除などさまざまな肝傷害を与えた.その後,肝の凍結切片を作製し,X-ga1染色とcytokeratin19もしくはSox9染色の重染色を行った.その結果.特に四塩化炭素やTAAによる小葉中心性細胆管反応では,移植された肝細胞に由来する細胆管が存在することが明らかになった.移植に用いた肝細胞分画はdigitoninを門脈から注入し,門脈周囲組織を死滅させた後に採取しているため,胆管上皮細胞や肝幹細胞の混入の可能性はほとんどなく,肝細胞から細胆管上皮への分化転換が実際に起こっていることを初めて証明したデータであると考える.また,頻度は少ないが,DDCや総胆管結紮においても,一部の細胆管は肝細胞に由来することが判明した. 2.成熟肝でより効率的に肝細胞特異的な遺伝子組換えを起こさせ,MKK7ノックアウトの効果を検討するため,Mx1-Creマウスを導入し,準備を進めた.予備実験の結果,Mx1-Creにおいては,肝細胞特異的に100%近い効率で組換えを誘導できることが確認された.現在,MKK7(fl/fl)との交配を進めている.また,Mx1-Cre/ROSA26Rマウスを用いて,肝傷害に伴う肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換を検討し,肝細胞に由来する細胆管反応があることを示すデータが得られつつある. 3.Digitonin処置肝から得られた肝細胞のコラーゲンゲル内培養実験を継続し,定量RT-PCR法とWestern blitting法によりさまざまな肝細胞,胆管上皮細胞,肝幹細胞マーカーの発現を検討し,マウス肝細胞でもラット肝細胞と同様に,肝細胞から胆管上皮への分化転換が起こることを証明した.また,この分化転換に伴う遺伝子,蛋白発現変化がTNF-αで促進されることを示した. 本研究により,ROSA26Rを用いたさまざまな肝細胞追跡系で,肝細胞から胆管上皮細胞への分化転換がin vivoで起こることが初めて証明できた.分化転換が実際に起こりうるかは,いまだ肝臓研究者の間で議論が続いているところであり,可能な限り早く,今回得られた結果を論文として公表したい.
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