研究概要 |
変異型CRY1 Tgマウス(CRY1-AP Tgマウス:Neurosci Lett.451,246-251,2009)が示す糖尿病発症の機序の解明を目的とし、詳細な病態の解析を行った。まず糖尿病の症状はオスで顕著であり、症状には性差がある事が判明した。本マウスは離乳直後の3週齢の時点で既に顕著な耐糖能異常を示しており、そのレベルは週齢依存的に悪化した。また5週齢以前の幼若期は野生型マウスと比較して低体重であり、その後も肥満状態は観察されなかった。血糖値は週齢依存的に上昇し、相関して多飲・多飲・高尿糖等の糖尿病の症状を示した。本マウスはインスリン抵抗性及び高TG血症・高コレステロール血症は示さず、膵炎の兆候は観察されなかった。十分成熟した本マウスの組織免疫学的解析では、膵島のインスリン陽性領域は、野生型マウスと比較し著明に減少していた。また、週齢依存的にインスリン陽性領域はさらに減少する事が判った。この結果と一致して随時及び絶食時の血清インスリンレベルは顕著に低下していた。野生型マウスで観察される糖負荷後の血清インスリン値の上昇は、CRY1-AP Tgマウスでは観察されなかった。以上の結果から、膵ベータ細胞の機能不全が本マウスの糖尿病の主因であり、ヒトのMODY(若年発症成人型糖尿病)と類似した症状である事が判明した。これらの結果から、CRY1は生物時計制御に加え、膵ベータ細胞においても重要な機能を担っており、糖尿病の発症予防にも深く関わることが考えられる。本マウスの解析からMODYの病因解明に重要な知見が得られる事が期待される。さらに本マウスの時間生物学的解析を給餌性概日リズムに着目して行い、本マウスの視交叉上核(SCN)は給餌刺激に同調しうる特異な性質を持つ事を示唆する結果を得、上記病態解析と共に鋭意解析を続けている。
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