[目的]p63が扁平上皮癌細胞のタンパク質リン酸化シグナル伝達系に及ぼす影響を抗体アレイで解析することにより、p63による癌細胞の制御機構を明らかにする。 [実施項目]p63を高発現する扁平上皮癌細胞株において、siRNA導入によりp63をノックダウンし、細胞のタンパク質リン酸化を総合的に分析し、細胞の増殖能と形質の変化を解析した。 [結果]1、FaDu、HSC-1、A431などの扁平上皮癌細胞でsiRNAによりp63を効率良いノックダウンする条件を設定した。研究者らが設計した二重鎖RNAをトランスフェクションにより導入した。高分化型の扁平上皮癌細胞(A431)では無血清培地を用いるなどの工夫を行った。2、本年度はFaDu細胞のp63ノックダウンによるリン酸化プロテオーム解析を実施した。Human Phospho-MAPK Antibody ArrayおよびHuman Phospho-Kinase Antibody Array (R & D Systems)を用いた。細胞全抽出物での解析ではERK1の特異的なリン酸化促進が検出された。Westernブロット解析でもこの結果が確認された。次に核と細胞質を分画し、再解析すると、核内でGSK3βのリン酸化促進が検出された。ERK1とGSK3βに機能的関連性があり、ΔNp63タンパク質がタンパク質脱リン酸化酵素PP2Aの制御因子に結合するという報告があるので、p63の消失によりPP2Aが抑制され、GSK3βのリン酸化が促進されたと考えられた。3、p63ノックダウンFaDu細胞でG1停止による増殖抑制が検出された。軟寒天中コロニー形成でも抑制が見られた。 [意義と重要性]p63がタンパク質レベルで特定の脱リン酸化酵素に作用して、核内のリン酸化シグナル伝達経路に影響し、癌細胞の細胞周期を促進するという新たな機能が示唆された。
|