本年度は昨年度に引き続き、CD109ノックアウトマウスの表現型の解析を行った。まずin situ hybridizationによりCD109が皮膚・精巣にて高発現していることを確認した。CD109ノックアウトマウスは生後2週から8週にかけて野生型と比べて明らかにわかる体毛発育障害が認められるため、経時的に皮膚の組織切片を作成して皮膚、毛包、付属器の形態的変化について解析した。その結果、CD109ノックアウトマウスでは野生型マウスに比べて表皮が厚いこと、体毛の成長方向にバラツキがあること、毛包の拡張傾向があることが判明した。表皮の肥厚について、免疫染色を用いてどのレベルの細胞が増生しているのかを検討したところ、基底部の細胞層が肥厚していることが明らかとなり、CD109の欠損により表皮ケラチノサイトの分化に障害が起きている可能性が示唆された。この事は、CD109は高分化型扁平上皮癌に高頻度で発現しており、低分化型扁平上皮癌では発現頻度が低いという過去の報告に矛盾しない結果であった。毛包の拡張や体毛の発育障害は表皮の肥厚に伴う二次的なものと考えられた。CD109はTGFβシグナルを負に制御することが明らかになっているので、リン酸化Smad2抗体を用いた免疫染色にて表皮におけるSmad2のリン酸化の程度を検討したが、CD109ノックアウトマウスと野生型マウスの間で有意な差が確認出来なかった。本年度の研究結果から、CD109は扁平上皮の正常な分化に重要であることが示唆された。CD109ノックアウトマウスの精巣における表現型については、現在までの解析では野生型と比較して有意な差が認められていない。今後はCD109ノックアウトマウスからCD109欠損ケラチノサイトを樹立して、TGFβシグナルとの関連を検討していく予定である。
|