《RetD707N変異マウスの表現型の解析》 Retによるアポトーシス活性が喪失するD707N変異をノックンしたマウスの表現型を、更に詳細に解析する目的で、抗Ret抗体による免疫染色の条件を最適化し、今までに報告されていた以上に、高感度・高特異的にRet陽性細胞を検出することに成功した。今まで、変異マウスにおける神経細胞過形成が確認されたのは、Ret陽性細胞が神経細胞全体の100%を占める交感・副交感神経節だけであったが、Ret陽性細胞が全体の一部のみを占める三叉神経節、脊髄後根神経節においてもRet陽性神経細胞の数が増えていることが明らかとなった。したがって、Retによるアポトーシス活性の生理的機能は、交感・副交感神経系のみでなく、感覚・運動神経などを含む広いカテゴリーで神経発生に重要な意義があるものと考えられる。 《アポトーシス活性を示すRet蛋白断片の生理学的解析》 受容体型チロシンキナーゼであるRetは、細胞内の二箇所が切断されて蛋白断片が作られることがアポトーシス活性に重要なステップである。Ret蛋白断片の機能を解析する目的で、培養細胞を用いて断片の細胞内局在を調べたところ、核への局在が明らかとなった。断片のN末端ある核移行配列候補の領域にアミノ酸変異を導入したところ、核への局在性が失われた。したがって、蛋白断片のN末端は核移行シグナルとして機能していると考えられた。 Ret蛋白断片の核における機能を解析する目的で、ルシフェラーゼアッセイを用いて転写調節能を調べたところ、Ret蛋白断片には転写抑制機能があることが明らかとなった。転写抑制能に必要なドメインはN末端側の1/3の領域であること、転写抑制能にはチロシンキナーゼ活性は不必要であることも明らかとなった。現在、転写抑制の機能とアポトーシス誘導の機能に関連があるかについて解析を行っている。
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