《RetD707N変異マウスにおける腸管神経系の解析》 Retによるアポトーシス活性が喪失するD707N変異をノックンしたマウスには、腸管神経の過形成とともに、腸管神経の肛門側における欠損が生じることが明らかとなった。腸管神経の過形成についてはアポトーシス抑制にて説明が可能であるが、神経欠損に関してはメカニズムが分からない。マウスにおいては神経堤細胞に由来する消化管神経前駆細胞がE10.0の時点で前腸の口側から侵入し、消化管に沿って移動し、E14.5に肛門へ達する。変異マウスにおいて消化管神経前駆細胞の移動を調べたところ、神経の移動スケジュールが約一日遅れていることが明らかとなった。消化管神経前駆細はRetリガンドであるGDNFに対して走化性を示す。変異マウスの発生過程の消化管片をコラーゲンゲル中で培養しGDNFに対する走化性を調べたところ移動能が低下していた。従って変異マウスではRetシグナルに異常が生じている可能性が考えられた。培養細胞を用いて各種のRetシグナルを調べたが、今のところ明らかな差は見つかっていない。今後、更に詳細な解析が必要である。 消化管神経の発生におけるRetシグナルの重要性を調べるため、RetおよびGDNFノックアウトマウスとRetD707N変異マウスとを交配させた重複変異マウスを作製し、解析を行った。 Retノックアウトとの重複変異マウス、GDNFノックアウトマウスのヘテロを背景としたRetD707N変異のホモマウスの両者は変異Retシグナルが半分量になると考えられる。この2種の重複変異マウスのいずれにおいても消化管欠損領域の拡大が観察された。したがって、D707N変異に伴う消化管神経前駆細胞の移動能の障害はloss of functionによるものであり、Retシグナルに異常が生じた結果であることが示唆された。
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