Drs遺伝子KO-MEF細胞とWT-MEF細胞との比較実験を中心にしてDrs/GADD34によるストレス環境化での細胞生存機構を解析し以下の成果を得た。1.前年度、我々はDrsKO細胞ではWT細胞に比べて解糖系が亢進しており、Drsが細胞のエネルギー代謝の制御にも関わってることを見出した。本年度はその分子機構の解析を行ない、DrsKO細胞ではピルビン酸から乳酸への反応を担うラクトースデヒドロゲナーゼ(LDH)の発現量がWT細胞に比べて有意に増加していることを見出した。また前年度、Drsがストレス応答蛋白GADD34との結合を介してTSC1/2と複合体を形成し、TSC2のThr1462のリン酸化をGADD34と協同して抑制することによってmTOR経路の抑制に関わっていることを明らかにしたが、解糖系の制御に関わるLDHの発現とmTOR経路がDrsの発現によって抑制されることを明らかにした。好気的培養条件下でも解糖系が亢進する現象は癌細胞に特徴的な代謝変化でワールブルグ効果と呼ばれている。Drs遺伝子の発現が多くの癌組織で抑制されていることから、Drsの発現消失がこの代謝変化を誘導することで癌の悪性化に関与することが考えられる。2.前年度、DrsKO細胞ではWT細胞に比べてVSVなどのウイルス増殖が亢進することから、Drsは癌だけでなくウイルス増殖の制御にも関与していることを報告したが、本年度はこのウイルス増殖亢進の分子機構を解析し、Drsによるウイルス増殖の抑制にはDrsからGADD34を介したmTOR経路によるウイルス蛋白合成の抑制が重要な役割をはたしていることを明らかにした。 これらの結果から、Drsはエネルギー枯渇、エネルギー代謝、ウイルス感染など様々なストレスに対する細胞応答に重要な役割をはたしていること、またDrsはストレス応答蛋白GADD34を介してmTOR経路の制御に関与していることが明らかになってきた。
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