細胞のタンパク質合成装置リボソームの成分であるS19リボソームタンパク質(RP S19)が、正常血漿中に存在しており、血液凝固の過程で活性型凝固XIII因子の作用で架橋二量体化されて単球走化活性を獲得することを、21年度までの研究で明らかにした。22年度は、この現象の医学的な役割を明らかにする研究を、モルモットを用いて行った。モルモットの心臓血を採取し、小ガラス管内で凝固させた凝血塊をモルモット腹腔に移入して、1日から7日後にかけて経日的に回収し、吸収の程度を凝血塊の残存重量から定量するとともに、単球/マクロファージの凝血塊表層と内部への浸潤状況と性状を光学顕微鏡および電子顕微鏡を用いて観察した。凝血塊の表層は浸潤した単球/マクロファージにより24時間自までに被覆された。単球/マクロファージは同時に凝血塊内部にも浸潤した。表層を被覆した単球/マクロファージはお互いに指状突起を出し合って連結したが、貪食は認められなかった。一方、凝血塊内部に侵入した単球/マクロファージは自由細胞として盛んに赤血球などを貪食し、7日目までには凝血塊は吸収された。ガラス管内で凝血塊を調製する際に、抗RP S19抗体あるいは機能的二量体に抵抗性を持つGln137Asn変異RP S19を内在させたところ、単球/マクロファージによる被覆や貪食が減少し、凝血塊の吸収は有意に遅延した。単球増殖因子(MCSF)を投与して単球増多症に導いたモルモットを用いて同じ実験を行ったところ、逆に、単球/マクロファージの浸潤が著明に増加し、凝血塊は3日目までに吸収されてしまった。 以上の結果から、血液凝固の過程で生成されたRP S19二量体は、単球/マクロファージを凝血塊へと動員して凝血塊を貪食処理させる役割を果たすことが明らかになった。また、この凝血塊吸収は末梢血の単球密度を増加させることで促進させることができることから、内出血巣や血栓の治療法の改善にもつながるごとが期待される。
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