骨髄や骨への癌転移は、様々な癌種で患者の予後不良を招く。しかし、癌細胞が原発巣から離脱して骨髄や骨組織内に向かい、そこに転移・生着する分子機構の詳細は未だ明らかでない。そこで、骨転移を阻害できる有効な治療法を確立することを目的に、従来の骨転移研究とは異なる免疫学的な観点から研究を進めた。まず、上皮間葉転換(EMT)の中心的転写因子の一つである「Snail」の強制発現癌細胞株や、内因性のSnailを高発現している癌細胞株を用いてGFP発現細胞株を作製し、マウス尾静脈内に移植することで、脾臓やリンパ節等の他臓器に比較して骨髄に優位に転移すること、しかし、Snail遺伝子特異的なsiRNAの導入によって、Snail発現の阻害とともに骨髄には転移しなくなることを確認した。次に、転移した癌細胞が骨髄環境に与える影響を解析するため、各種アッセイ系においてマウス骨髄細胞を癌細胞の培養上清で3-7日間刺激培養した。その結果、TRAp+破骨細胞の分化は強く抑制されるが、fibroblast様の細胞や免疫抑制活性を示すCD11c+Gr1+細胞(MDSC)などが顕著に増加すること、しかし、Snail発現を阻害することでこれらを解除できることが分かった。また、Snail発現癌細胞株を移植したマウスの骨髄細胞を解析し、破骨細胞の分化はやはり極端に抑制されるが、MDSCは骨髄や腫瘍局所よりもむしろ抗腫瘍エフェクターとなるT細胞の多い脾臓やリンパ節に集積することが分かった。これらT細胞の免疫活性は、極めて低下していた。したがって、EMTでSnailを発現した癌細胞は、骨髄への転移を通じて、宿主体内の免疫を全身的に効率良く抑制していることが明らかとなった。現在、Snail発現と相関性を示す遺伝子の発現をRT-PCR法などで分子生物学的に解析しており、骨転移関連で従来報告されている分子以外の新たな分子が本機序を制御している可能性を見出しつつある。今後は、本成果を白血病研究などへも発展させていく。
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