我々はこれまで、上皮間葉転換で中心的役割を果たす転写因子の一つ「Snail」を高発現する癌細胞は、他臓器に比較して骨髄に優位に転移することを見出し、昨年度、転移した癌細胞は骨髄中で免疫抑制性の細胞群を増加させ、担癌宿主内の抗腫瘍免疫を全身的に抑制することを明らかにした。そこで、本年度は、その制御分子を特定し、骨転移の病態形成に関する分子機序を解明することにした。 まず、リウマチ関節炎や骨粗鬆症など様々な骨関連疾患で知られる分子を広範に調査し、マウスやヒトの癌細胞株を用いて、mRNA発現をRT-PCR法で、細胞培養上清中のタンパク量をELISA法で解析した。その中から、Snail発現と正の相関性を示し、かつ、新規性の高い遺伝子を選出し、それらの遺伝子に特異的なsiRNAを導入した後の変化にを癌細胞側と宿主免疫側の両面から解析した。癌細胞の浸潤能、CXCR4などの骨遊走性規定分子の発現、免疫抑制性細胞群の誘導などを評価した結果、Snail下流で制御されるエフェクター分子を同定することができた。この分子は、種々のヒト自血病株でも高発現していることが分かった。Snail発現癌細胞にそのsiRNAを導入すると、マウス移植後の骨転移や免疫抑制性細胞の増加が有意に抑制されるだけでなく、抗腫瘍免疫が全身的に増強されることから、本分子を標的とすることは癌治療として有用である可能性が示唆された。一方、抗腫瘍免疫増強するための別のアプローチとして、本機序の最上流に位置するSnailのHLA-A24拘束性CTLエピトープを同定し、ヒト末梢血細胞からSnail特異的CTLを効果的に誘導できる新規ペプチドワクチンを確立した。 今後は、骨髄内でMETに回帰して増殖する癌細胞や、EMT因子が関連する癌幹細胞などについても対宿主的な観点から解析し、癌の難治性を形成する病態機序をより深く追究していく。
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