研究概要 |
過去2年間に実施した研究で、1)シアル酸を発現するがんが腫瘍免疫を回避して進展する免疫学的メカニズムの一端を明らかにしてきた。さらに、観察される病理像をヒントにすることで新しい減感作療法の技術シーズとして検討を進めて、アレルギーや自己免疫疾患における免疫応答制御への適応可能性を明らかにしている。 さらなる研究を実施することを計画していた本年度は、温度感受性T抗原を組織特異的に発現させられるT26マウスを用い、OMLやSL投与後に誘導される抗原特異的なT細胞や、各種の不死化上皮細胞、そして中皮細胞の樹立を試みた。T26マウスは、適当なプロモーターの支配下にCre酵素を発現しているドライバーマウスと交配することで、Creの発現する細胞で生じたCre/loxP遺伝子組み換えにより、CAGプロモーターの支配下にtsTAgが発現するようになる。tsTAgは、p53とRbファミリー分子と結合してその機能を阻害することから、培養系に持ち込んだ際には、senescenceを抑制して、目的の不死化細胞を樹立することができる。 tsTAg抗原によるB細胞の不死化については、H-2Kbプロモータ下にT抗原を発現させるマウスを作出して、B細胞を不死化できることが既に報告されている。この報告ではハイブリドーマとの融合をする事無く抗体の調製まで実施しているが、我々とは異なりCre/loxP遺伝子組換えを用いていない(PNAS,101(1)257-259,2004)。T26マウスとCAG-CreMerマウスを交配し、取り出したT細胞および中皮細胞をタモキシフェンで処理する事によって、不死化細胞株の樹立を試みた。CAG-CreMerマウスは、CAGプロモーターの下流にCreMerを接続した遺伝子を有しており、タモキシフェン投与で全身性のCre/loxP遺伝子組換えを引き起こすことが可能となるドライバーラインである。不死化中皮細胞を樹立できたが、T細胞の樹立は達成できなかった。各種サイトカインやPHA-Lの存在下では増殖を維持できるので、T細胞株の樹立維持には、さらなる工夫が必要であると考えられた。
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