研究課題
本年度は、血液凝固第VII因子(fVII)の発現を、外科切除乳がん症例での免疫染色で解析した。fVIIタンパク質は、発現強度の差はあるものの解析例のほとんどすべてで検出可能であった。また、乳がん組織の周囲に浸潤性に集まっているマクロプァージと考えられる炎症細胞にも強いfVIIの発現が見られ、腫瘍細胞自身が産生する異所性fVIIのみならず、炎症細胞由来のfVIIも腫瘍細胞膜表面上で組織因子TFと複合体を形成し機能する可能性が示唆された。また、異所性にfVIIを発現する腫瘍細胞は、TF-fVIIa複合体を含む極めて高い凝固能を持つマイクロパーティクル(MP)を産生することを、臨床的に血栓塞栓症の合併率が高いことで知られるヒト卵巣明細胞腺癌細胞や、ヒト乳がん細胞の培養上清を用いたEACS解析などで明らかにした。MPの腫瘍細胞からの遊離自体が、低酸素濃度や、血清を除いた低栄養の培養条件下で亢進することが示唆された。更に、腫瘍細胞により異所性に産生されるfVIIを制御する可能性を探る実験を進め、異所性に発現する場合は、生理的な肝臓での発現とは異なり、転写の補活性化因子であるヒストンアセチル化酵素(HAT) p300, CBPがFVIIプロモータに特異的に結合することを見出した。また、カレー粉の主成分でありp300阻害剤として機能するクルクミンで細胞を処理することにより異所性FVII遺伝子発現を選択的に抑制することに成功した。クロマチン免疫沈降、ウエスタンブロット、Xa generationアッセイなどの実験よりクルクミンはp300のFVIIプロモータへの結合を妨げ、fVIIの産生に続く細胞表面におけるTF-fVII複合体形成を阻害することが明らかとなった。
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Molecular Cancer Research 7(12)
ページ: 1928-1936
British Journal of Cancer 101
ページ: 2023-2029