研究概要 |
VEGFシグナル阻害による転移・浸潤形質の誘導の分子メカニズムを明らかにすることを目的として、まず、血管新生阻害がもたらす還流不全による低酸素の役割を明らかにする。hypoxia inducible factor(HIF)は低酸素応答を司る転写因子であり、血管新生阻害による浸潤形質の誘導に重要な役割を果たしている可能性がある。HIF-1およびHIF-2は常酸素下では分解され、低酸素下では安定化し、HIF-1βと結合することによって転写因子として機能する。HIF-1とHIF-2は高い相同性を持つが、最近その標的遺伝子が異なり、異なる反応を制御していることが示された。 21年度はHIF-1α,およびHIF-1βの膵島特異的ノックアウトマウスとVEGFノックアウトRIP-Tag2マウスとの交配を行うことにより、HIF-1の機能を検討した。重複ノックアウトマウス(VEGF/HIF-1αDKO, RIP-Tag2,)はVEGF単独ノックアウトマウスと比較して長命であった。形態学的な解析を行った結果、VEGF単独ノックアウトマウスで見られた腫瘍の浸潤形質が重複ノックアウトマウスでは著しく低下していることが明らかになった。そこで、浸潤形質に関与したHIF-1α下流遺伝子の同定を試みた。RIP-Tag2腫瘍の浸潤形質にはE-cadherinやNCAMなどの接着因子が関与していることが既に遺伝的に証明されている。VEGF欠損腫瘍ではE-cadherinの発現が低下していたので、重複ノックアウトマウスでE-cadherinの発現の変化を検討したところ、E-cadherinの発現は野生型腫瘍と同等であった。膵島β細胞はE-cadherinとN-cadherinが同時に発現していることが知られているが、VEGF欠損腫瘍ではN-cadherinの発現も低下していた。E-cadherin低下とN-cadherinの低下は相補的な関係であった。以上から、VEGF KOによる浸潤形質にはHIFと接着因子の発現が重要な役割を果たしていることが明らかになった。
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