研究概要 |
タイ肝吸虫(Opisthorchis viverrini)の感染は胆管癌の発癌を誘導することが明らかにされたが、その分子メカニズムは不明である。本研究の目的はその発癌の分子メカニズムの解明及び早期診断及び遺伝子治療に応用する腫瘍マーカーを同定する。今年度はcDNAマイクロアレイの解析によるリストアップした癌化に関与する候補遺伝子の流行地由来胆管癌患者における発現及び臨床病理との相関性を検討した。 Galectin-1は細胞-基質間の接着や細胞のアポトーシス、腫瘍の形質変換などに関与していることが知られている。肝吸虫感染による胆管癌発癌動物モデルにおいて、galectin-1の発現は癌化に伴って著しく増加した。発癌動物及び78例胆管癌患者を解析した結果は、癌組織におけるgalectin-1の発現が高くなり、発現がtumor stromaの線維芽細胞および胆管癌上皮細胞に局在することを示した。さらに、臨床病理性との相関性の解析結果は、発現が胆管癌の進行期、転移及び生存率と相関して、予後因子であることを示した。結果はgalectin-1が肝吸虫感染による胆管癌の発癌に関与すること、腫瘍因子として、診断、治療及び予後に応用性があることを示唆した。同様な解析はRb1,cyclin D1,HSP70,Mfge8及びHDAC6の発現が胆管癌のタイプ、進行期、生存率と相関することを明らかにした。 まだ、流行地由来胆管癌細胞株を用いて、遺伝的エピジェネシス及びDNAメチル化と発癌の関連性を検討した。肝臓に解毒を行う酵素CYP3A4,1A2,2B6,2D6,2C18及びそれら酵素の発現を制御する因子(Ahr,Pxr,Car)の発現は感染発癌動物モデル及び胆管癌組織において低下になり、肝吸虫感染が起した慢性炎症によるNOSなど有害物質の解毒代謝の低下が癌化の起因になると考えられる。さらに、5-aza-dcの脱メチル処理は胆管癌細胞の増殖を抑制し(50-80%)、細胞のmigration及びinvasionを抑制した。脱メチル処理された癌細胞には細胞増殖因子(Vegfa, Pdpk1, galectin-1, galectin-3)、細胞周期因子(cyclin D1, Cdk4)、癌化因子(Pten, catenin, S100A2, S100P, Tifla, Tiflg)及び抗アポトーシス因子(Bcl2, Flip, Trail)の発現が抑制され、Rbシグナル因子(Rb1,p16)、CYP酵素の制御因子(Pxr,Car)の発現が増加した。これらの結果は肝吸虫感染によるDNAメチル化が発癌の一つ原因を示唆した。
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