糞線虫や鉤虫はいわゆる土壌媒介性の寄生虫であり、深刻な健康被害と社会的損失をもたらしている。しかしながら代表的な「顧みられない病気」であり、病原体に関する研究は少ない。糞線虫や鉤虫では「感染幼虫」と呼ばれる感染型幼虫が土壌中で宿主との遭遇を待ち、宿主に接触すると直ちに皮膚からの侵入を開始する。感染幼虫が効率よく宿主に侵入することは寄生虫として存在する上で必須であり、感染幼虫による宿主侵入の分子機構を知ることは土壌媒介性寄生虫類の寄生適応の理解に貢献するだけでなく、感染制御のあたらしい方法を開発することにつながる。本研究計画では、マウス・ラット類の腸管寄生線虫であるベネズエラ糞線虫を用いて、感染幼虫の生物学的な特性と宿主侵入機構を分子レベルで明らかにする。 平成21-22年度の研究では、ベネズエラ糞線虫感染幼虫のコンベンショナルなcDNAライブラリを作製しESTデータベースを構築した。それにより、アスタシン様メタロプロテアーゼやL3NieAgなど、感染幼虫において特異的に発現している遺伝子の発現分析などをおこなった。さらに発現遺伝子をより詳細に検討するために、高速シーケンサによって60万リード以上のESTを分析した結果、アスタシン様メタロプロテアーゼやL3NieAgに加えて、感染幼虫特異的なタンパク質として、アセチルコリンエステラーゼ、グリセロールキナーゼ、コリンエタノラミンキナーゼなどが得られた。とくに興味深いのはアセチルコリンエステラーゼで、ベネズエラ糞線虫は、感染幼虫特異的なものと他のステージに特異的なアセチルコリンエステラーゼを何種類か持ち、これらを発育段階によって使い分けている可能性が示唆された。最終年度はこれらのタンパク質の詳細な解析を進める予定である。
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