ネズミマラリア原虫をモデルとして、肝臓に侵入するステージであるスポロゾイトで同定された転写因子AP2-Sp(AP2 in sporozoites)について解析を進めてきた。昨年の研究によってAP2-Spはスポロゾイト期特異的に発現し、スポロゾイトの侵入、感染に必要な遺伝子群のほぼすべてを誘導するマスター転写因子であることを明らかにした。今年度はこのことを更に確認する実験を行った。この転写因子をノックアウトした原虫は、肝細胞への感染に必要な遺伝子の発現が出来す、結果として感染が成立しないことも明らかになった。一方我々は、AP2-SpのDNA結合ドメインを有するキメラ転写因子を蚊侵入ステージであるオオキネートに発現させる研究を継続し、多数のAP2-Sp標的遺伝子をオオキネート期に誘導することに成功した。 新たに同定されたAP2-Sp標的遺伝子の一つASA1(AP2-Spactivated gene 1)は細胞膜結合蛋白質をコードしている遺伝子であり、肝臓感染ステージである唾液腺スポロゾイトで特異的に発現される。ASA1遺伝子ノックアウト原虫は正常にマウスの血液、蚊の唾液腺に感染したが、肝臓への感染性が数千分の一に低下することを明らかにした。HepG2細胞を用いたin vitro侵入アッセイでは、ASA1ノックアウト原虫の肝細胞侵入能が十分の一以下に低下していることが分かった。さらにHepG2細胞に侵入した少数の原虫もその後の細胞内でのEEF (exoerythrcytic form)へのdevelopmentに異常が認められた。一方、HepG2細胞通過(障害)活性は野生型の約三倍に増加していた。以上の結果は、ASA1が肝実質細胞の認識に必要であること、ASA1を介したコミットメントがその後の肝細胞内ステージへの移行に重要な役割を担っていることを示すことができたと考えている。
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