細菌が生産する抗菌物質のバクテリオシンは腸球菌の腸管内定着能に関与すると考えられる。私達が臨床分離腸球菌株から発見した抗リステリア菌活性を持つ新規のSec依存性IIa型バクテリオシン2種類(Bac31とBac43)の分子遺伝学的解析を行った。軟寒天重層法を用いたこれらの比較では、Bac43の方がより強い活性を持ち抗菌域も広かった。しかし分泌型Bac31とBac43はそれぞれ43アミノ酸、44アミノ酸から成るが、Bac43のC末端の1残基を除き、その配列はほぼ同一であり、13、21、23、24、36番目の5残基が異なるのみであった。異なる5個の残基をBac31の配列にそれぞれ置換した変異型Bac43を作製し活性を測定した。その結果、13番目と24番目のアミノ酸を同時にBac31型に置換(E13Q、G24R)するとバクテリオシン活性が減弱することが解った。しかし全てのアミノ酸をBac31型に置換した変異Bac43においても完全にはBac31と同等の活性及び活性域は示さなかった。そこで、それぞれのプロモーター配列、シグナル配列、免疫因子遺伝子を互いに置換したキメラ型バクテリオシンを作成し解析した。またプロモーター活性を新規プラスミドベクターを構築し測定した。これらの結果から、IIa型バクテリオシンの活性には分泌型のアミノ酸配列だけではなく、遺伝子の発現量(転写量、プラスミドコピー数)、蛋白の分泌効率(シグナル配列)などの菌体外分泌蛋白量も影響していることが確認された。この中でも、シグナル配列が最も活性(菌体外分泌量)に影響を与える因子であることが解った。さらに発現分泌量の差により見かけ上の活性域も異なることが示された。一方、培養上清を用いた活性測定ではBac31とBac43は同等の殺菌作用を示した。またそれぞれの免疫因子の働きは自身のバクテリオシン活性、発現量と相関しており、進化過程で選択され適応したことが示唆された。
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