本研究では、結核菌初感染後の宿主感染防御おけるPD-1シグナルの影響について解析した。PD-1は抗原特異的T細胞に抑制性シグナルを伝達するレセプターとして機能する分子である。結核菌感染後、正常マウスに比較してPD-1欠損マウスの肺では強い炎症反応と著しい菌数の増加が認められ、結核菌を感染したPD-1欠損マウスは感染後早期に死亡した。この原因について解析したところ、PD-1欠損マウスの肺では結核菌感染後に炎症性サイトカインおよびケモカイン産生の上昇と、マクロファージおよび好中球の著明な集積が観察された。これらの結果から、PD-1欠損マウスの肺では結核菌感染後に過剰な炎症反応が誘導され、その結果菌の増殖をコントロールできなくなるため感染が増悪したと考えられる。また、正常およびPD-1欠損マウスのCD4+ T細胞をRAG2欠損マウスに移入して結核菌を感染させると、正常マウスのT細胞を移入したマウスに死亡例は認められなかったが、PD-1欠損マウスのT細胞を移入したマウスは感染早期に死亡することがわかった。さらに、結核菌感染後にIFN-γに対する中和抗体を投与すると、PD-1欠損マウスで見られた激しい炎症が減弱し、延命効果が認められた。以上の結果から、結核菌を感染すると宿主では感染抵抗性CD4+ T細胞が誘導されるが、その際PD-1を介した抑制性シグナルがないとT細胞は過剰に応答し、IFN-γを大量に産生する。それが引き金となり、過度な炎症反応が惹起されて組織障害が生じ、菌の排除が困難になることが示された。また、結核菌因子PPE37は感染後にその発現が上昇することから、結核菌の病原性に関係があると考えられる。その菌の病原性における機能を解析した結果、PPE37はマクロファージのMAPKやp38の活性化を抑え、炎症性サイトカイン産生の抑制に関与することが示された。
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