偏性細胞内寄生細菌・リケッチアはマダニ等の媒介節足動物(ベクター)中で共生的に生存し、経卵伝播する。通常、ベクターは吸血するまで年余にわたり飢餓状態で生残するが、リケッチアはベクターの飢餓状態にも対応して生存を続ける。本研究では飢餓環境におけるリケッチア生残のための応答機構を、培養細胞レベルで分子生物学的に解明することを目的とし、リケッチア感染昆虫細胞あるいはマダニ細胞に飢餓状態を誘導した場合、リケッチアのどのような遺伝子群が飢餓状態に応答しそ発現するかを明らかにすることを目指した。 マダニ細胞(DALBE3、ISE6)を培養し、アミノ酸枯渇により誘導されるオートファジー関連遺伝子の発現状態で飢餓状態の成立をモニターすることを試みたが、ヒトあるいはラットの抗Atg8抗体、抗LC3抗体はマダニ細胞の抗原との交差反応性が弱く、オートファジー誘導をモニターできなかった。そこで、マダニ(Dermacentor albipictus)由来のDALBE3細胞でのオートファジーをモニターする目的で、D.albipictusのAtg12に対する抗体を作製している。 これとは別に、マダニ細胞、ほ乳動物細胞(Vero、HeLa)に非病原性の紅斑熱群リケッチアを感染させると、リケッチアの増殖が抑制されており、持続感染が成立した。ウエスタンブロット法、電子顕微鏡観察等によりオートファジーが増殖抑制に関与していることが示唆された。また、この感染細胞に病原性株を重感染すると病原性株同様、非病原性株の増殖も惹起されることが示された。 これらから、リケッチアのマダニ細胞内持続感染とオートファジーとの関係の重要性が示唆された。今後、作製した抗体を用いて飢餓状態をモニターし、飢餓応答により発現する遺伝子群とリケッチアの生残との関連を明らかにする。
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