病原性レプトスピラ(Leptospira interrogans)は、自然免疫機構を回避し、いろいろな臓器に移行するが、これらの機構は未だに解明されていない。本研究では、病原性レプトスピラの自然免疫回避機構を明らかにすることを目的とし、マクロファージへの感染機構に注目した。 病原性レプトスピラ(生菌)はマクロファージに貪食された後細胞内にとどまるが、4時間を経過すると細胞外に菌体が存在することが示された。この間、細胞のアポトーシスやネクローシスといった細胞死と思われる所見は得られなかった。したがって、これらの結果はマクロファージに貪食された菌が消化を受けずに存在し、さらに、宿主細胞に障害を与える事なしに細胞外へ再び出る可能性を示唆した。一方で、死菌を感染させた場合には、時間経過とともに細胞内の菌が細胞外へ出ることは観察されなかった。一連の興味深い現象はレプトスピラ生菌のみに観察されたことから、何らかの殺菌回避および細胞外遊離メカニズムを有していると考えられた。 平成21年度はファゴソームの成熟過程の解析を行った。先ずは、レプトスピラがマクロファージ貪食後に、小胞内に存在するかあるいはリステリア菌や赤痢菌等のように細胞質ヘエスケープするかを明らかにするために、超薄切片を作成し透過型電子顕微鏡を用いて観察した。その結果、レプトスピラは感染4時間後に小胞内にスピロヘータの形状を保持していることが分かった。レプトスピラ小胞の細胞内挙動を調べるために初期エンドソームマーカー(EAA1)、後期エンドソームマーカー(LAMP1)、及びライソゾームマーカー(カテプシンD)に対する抗体を用いて蛍光免疫染色を行った結果、生菌は死菌よりカテプシンDとの共局在が低下していた。以上の結果から、病原性レプトスピラはマクロファージに貪食後、細胞内にとどまって生存し、さらに宿主細胞死を誘導することなく細胞外へ遊離すると考えられる。
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