研究概要 |
A群レンサ球菌は劇症型感染症を引き起こし、病態には菌の産生する毒素蛋白質が関与している。菌の生理的な代謝活動、特に糖の代謝が病原性に深く関与し、その制御系が毒素蛋白質発現にも影響を与えると考えられる。本研究では糖の膜輸送に関連するホスホトランスフェラーゼ(PTS)系とその発現制御系が如何に病原性と関連しているかを明らかにすることを目的とした。PTS系遺伝子の近傍に位置する転写終結因子LicT, Spy1325のノックアウト株の樹立に成功した。それらの株を最小発育培地(CDM)に種々の糖を加えて培養し、増殖の解析を行った。M1由来のlicTノックアウト株ではlicT遺伝子の近傍にβグリコシド特異的トランスポーター遺伝子が存在するためβグリコシドであるサリシンとアルブチンを用いた。親株においては糖添加によって増殖が促進されたがノックアウト株では増殖が認められず、LicTとβグリコシド利用の関連が示唆された。spy1325遺伝子の近傍にはセロビオース特異的トランスポーター遺伝子が存在するためセロビオースをはじめ、それと近縁の糖を用いた。ノックアウト株でセロビオース添加による増殖の促進が認められ、Spy1325はセロビオース利用を負に制御している可能性が示唆された。以上の結果はA群レンサ球菌における転写終結系と糖利用の関係を始めて明らかにした成果である。また種々の糖存在下でlicT, spy1325ノックアウトと親株の間で培養上清中の毒素蛋白質の発現変化は検討中であるが、これによって糖利用と病原性の関連の新たな因果関係が明らかになることが期待される。一方上記の増殖の違いが認められた糖の存在下でトランスポーターの発現が実際どのように変化しているかを検討する必要がある。また今後は今年度解析した転写終結系以外のPTSシステムに関与すると考えられる制御系の解析も行う予定である。
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