研究概要 |
A群レンサ球菌は劇症型感染症を引き起こし、病態には菌の産生する毒素蛋白質が関与している。菌の生理的な代謝活動、特に糖の代謝が病原性に深く関与し、その制御系が毒素蛋白質発現にも影響を与えると考えられる。本研究では糖の膜輸送に関連するホスホトランスフェラーゼ(PTS)系とその発現制御系が如何に病原性と関連しているかを明らかにすることを目的とした。平成21年度ではM1タイプのA群レンサ球菌からPTS系遺伝子の近傍に位置する転写終結因子LicT, Spy1325のノックアウト株の樹立に成功した。平成22年度ではLicTに関してはM3,M5タイプにおいても樹立に成功した。licT遺伝子の近傍にβグリコシド特異的トランスポーター遺伝子が存在するため、βグリコシドであるサリシン存在下で培養したM1タイプの親株とノックアウト株を用いた実験から得られたLicTとβグリコシド利用の関連は、M3,M5タイプでは不明瞭であり、異なる制御系の存在が示唆された。次に種々の糖利用におけるその感知システムを検討するために、すでに我々が樹立していたA群レンサ球菌の13種類すべての二成分制御センサー蛋白質ノックアウト株を用いて実験を行った。驚くべきことにLicTとの関連が示唆されたサリシンに対しては、5種類のセンサー蛋白質のノックアウトにより、利用が十分にできなくなることが確認された。このことはサリシンの利用には複雑な感知システムが存在し、A群レンサ球菌の生存に重要な栄養源であることが考えられた。一方、増殖実験の基本として利用してきたグルコースに関しても、二成分制御因子CovSの関与が示唆された。すなわちCovSの存在の有無によって菌の増殖に最適なグルコース濃度が異なることを見出した。今後はこれまでの結果を詳細に確認していくとともに、病原性への関与を解析していく予定である。
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