研究概要 |
A群レンサ球菌は劇症型感染症を引き起こし、病態には菌の産生する毒素蛋白質が関与している。菌の生理的な代謝活動、特に糖の代謝が病原性に深く関与し、その制御系が毒素蛋白質発現にも影響を与えると考えられる。本研究では糖の膜輸送に関連するホスホトランスフェラーゼ(PTS)系とその発現制御系が如何に病原性と関連しているかを明らかにすることを目的とした。昨年までの実験方法では、培養に使用するCDM中の種々の糖を変化させ、培養後18から24時間後の濁度を基準に糖利用の可否を判断していた。しかし、その後の解析により、CDM中での培養では、栄養豊富なBHI中での培養と異なり、いったん増殖した菌は、時間経過とともに濁度が減少した。したがって最大の菌の増殖濁度と培養開始18から24時間後の濁度の両者の解析が不可欠であると判断した。よって今年度はSpy1325ノックアウトについて再度解析を行った。その目的のためゲノム株SF370,臨床分離MDN株由来のノックアウト株も樹立した。Spy1325ノックアウト株が野生株に比して、セロビオース存在培養において24時間後の濁度/最大濁度比が高いことが明らかとなり、昨年までの結果が確認された。二成分制御系のセンサー蛋白質CovSの糖利用への影響も解析を行った。同様の指標で評価したところ、CovSノックアウト株ではラクトース利用が低下することが明らかとなった。しかしこれらの実験では時間経過で溶菌しにくいという観点からの結果であり、糖利用がこの現象にどのように関与しているかを明らかにすることが今後の課題である。最後にCovSとグルコース利用についての、毒素蛋白質発現に関する実験を行い、グルコース付加と増殖時期に基づく発現がCovSによって影響を受けていることを示唆する結果を得た。このことは二成分制御因子と糖の関連が病原性に関与することを強く示唆している。
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