研究課題
結核(症)は年間200万人の死を招来する、最大級の細菌性感染症である。結核の多くは、人類の32%に休眠(dormant)して潜伏感染している菌の再増殖、すなわち内因性再燃により発症する。休眠結核菌は、低酸素下で増殖を停止した長期生存形態であり、多くの化学療法薬に対する感受性変化が生じる。潜在性結核対策を構築するために、休眠抗酸菌の薬剤抵抗性のメカニズムと標的分子の同定が必要である。本研究では、試験管内での休眠誘導系と休眠の維持に関わるMycobacterial DNA-binding protein 1(MDP1)を分子論的な足がかりとして休眠期の薬剤耐性機構や薬剤標的の同定を試みている。Mycobacterium smegmatisを用いて、野性株とMDP1欠失株、およびそのMDP1補填株について薬剤感受性を比較した。リファンピシン、エリスロマイシン、クロラムフェニコールについて比較したところ、好気的条件下では、エリスロマイシンにおいてMDP1欠失株が若干の耐性を示したものの、野性株、欠失株、補填株で大きな違いは観察されなかった。これに対し、休眠時では3種すべての薬剤についてMDP1欠失株において顕著な薬剤耐性の獲得が観察された。一方、イソニアジドに対する感受性は、MDP1欠失により増強することがわかった。イソニアジド耐性については、InhA、AhpC、KatG、KasAなどの遺伝子が関与することが報告されている。これらの4遺伝子についてMDP1の有無で、発現の増減が認められるかを転写レベルで解析した。その結果、KatGの転写量に違いがあることが判明した。MDP1がkatGの転写を調節することでイソニアジドの活性化を制御する可能性が示された。
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