研究概要 |
大腸菌が産生する細胞膨化致死毒素(CDT)は、少なくとも5種類ある。また、赤痢菌もS.dysenteriae、 S.flexneri、 S.boydii、 S.sonneiでcdt遺伝子を保有することが報告されている。本研究では、CDT-Iファージゲノムの多様性解析およびcdt遺伝子の上流・下流領域を解析し、これらcdt遺伝子の水平伝播機構を明らかにすることを目的とした。CDT-Iファージゲノムの多様性についてPCR-RFLPで解析した結果、8つに分けた領域全てでプロトタイプと同様の結果を示した株は、調べた35株の中で1株のみであり、もう1株は一部予想される断片より大きな断片が得られた。その他の株では、一部の領域でPCR産物が得られたものの17株では全く増幅断片が得られなかった。領域8が増幅された株はcdt遺伝子の下流、すなわちファージの挿入領域がprfC遺伝子であった。それ以外の株のファージの挿入部位はserU遺伝子であった。また、cdt-II, -III, -IVや-V遺伝子を保有する株では、調べた全ての株においてPCR産物が得られなかった。 一方、cdt遺伝子の上流、下流の塩基配列をゲノムウオーキング法で解析した結果、上流域にはEHEC、 UPEC、 APECやShigella属菌で見つかっているファージ関連蛋白をコードした遺伝子が見いだされた。下流域においては、UPEC、 APECやサルモネラ属菌で見いだされたファージ関連蛋白をコードした遺伝子が見いだされた。以上の結果より、CDT-Iはファージを介して大腸菌および赤痢菌の間に広がった可能性が高いが、ファージゲノムにはかなりの多様性があると考えられた。また、cdt遺伝子の上流、下流はUPEC、 EHEC、 APEC、 Shigella菌およびサルモネラ属菌のファージ関連遺伝子と相同性が高いことから、cdt遺伝子はラムダ様ファージによって様々な菌種間に広がった可能性が考えられた
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