サルモネラSTM1410はSPI-2遺伝子領域上にコードされるタンパク質である。STM1410はシグナル配列やconserved domainをもたず、また相同性のあるタンパク質が存在せず、機能が知られていない。これまでに、STM1410変異株にSPI-2エフェクターの一つであるPipBを発現するプラスミドを形質転換すると、野生株に比べPipBタンパク質の発現量は著しく減少するすることから、STM1410は、PipBの菌体内発現に関与することが強く示唆された。そこで、sTM1410のPipBの発現に対する影響を検討した。 野生株およびSTM1410変異株をSPI-2の発現誘導培地であるLPM培地を用いて培養後6時間で培養液を遠心後、RNAを抽出・精製し、real-timePCR法にて感染細胞内におけるpip8の転写活性を比較した。その結果、野生株およびSTM1410変異株におけるprpB遺伝子の転写活性に違いは見られなかった。そこで次に、発現したPipBタンパク質のSTM1410変異株内での安定性を調べた。PipB-Myc/His融合遺伝子をアラビノースで誘導可能なプロモーター下流に挿入したプラスミドを作成し、野生株とSTM1410変異株に形質転換し、それぞれの株についてアラビノース添加後、タンパク質合成阻害剤としてクロラムフェニコールを加え、経時的に菌体内のPipB-Myc/His融合タンパク質発現量をWestern blot法で検出し、PipBの細胞内安定性について野生株とSTM1410変異株とで比較した。アラビノース添加によるPipB-Myc/His融合タンパク質の強制発現後、05、1、2、4、6、8および12時間後では、野生株とSTM1410変異株で違いは見られなかったが18時間以降、野生株に比べSTM1410変異株では、intactなPipB-Myc/His融合タンパク質が減少した。一方、大腸菌K-12株でstm1410とpipB遺伝子の形質転換株とpipB遺伝子のみの形質転換株を用いて同様の実験をした結果、PipBの発現量に違いは見られなかった。したがって、STM1410によるPipBタンパク質の安定性にはSTM1410以外のサルモネラ特異的なタンパク質が関与していることが示唆された。STM1410は、III型分泌装置を構成する内膜タンパク質として機能するだけでなく、直接的ではないがエフェクターの細胞内安定性にも関わることが示唆され、このような多機能性タンパク質の存在はIII型分泌機構を解析する上で重要な発見である。
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