本研究は鉄欠乏性貧血(IDA)発症におけるHelicobacter pyloriの作用を解明することにあるので、宿主の鉄取り込み能に対するH.pyloriの病原因子の影響を見る系の確立をめざした。具体的には、培養細胞でありながら小腸同様の鉄の取り込み能を有するCaco-2細胞を用いて、H.pyloriとの混合培養を行った。これまで、H.pyloriは胃の上皮細胞に対する研究の報告が多数あるが、小腸上皮細胞との相互作用については検討が行われていないため、まず相互作用を検討した。Caco-2細胞にH.pyloriを添加したところ、18時間後には接種菌の0.8-から3.5倍の生菌数が持続していた。しかし、単独培養では、生菌数は10分の1から100分の1に低下した。混合培養下のH.pyloriは生存に必要な栄養を細胞から供給している可能性が考えられた。また、IDA患者由来の菌株は全て空胞化毒素産生性を認めたため、毒素めCaco-2細胞に対する作用を検討するために、H.pyloriの培養上清を添加したところ、VacA産生による有意な差は認めずに、すべての菌株上清に細胞数を減少させる作用があった。 細胞の鉄の取り込み能については培養液中に^<55>Feを添加して、細胞内に取り込まれた^<55>Feを測定した。その結果、生菌H.pyloriを添加した場合に鉄取り込み量の低下が確認された。しかしながら、菌株の由来により、低下の程度に差を認めなかった。今後は、取り込み量低下の機序を解明する必要が示された。 本研究内容は、ヒトの鉄欠乏性貧血発症のin vitroモデルととらえることができ、実験系の確立がまず重要であった。H.pyloriの生体内での分布として小腸内には生菌として存在することが難しいため、今後は生菌のみならず、培養上清や菌体成分、球形化した菌などを使って解析を実施し、本研究をさらに発展させることを計画している。
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