研究概要 |
鉄欠乏性貧血(IDA)患者においてHelicobacter pylori感染との関与が指摘されている。IDAに対する菌側病原因子を検索し、発症のメカニズムを明らかにすることを目的として、小児IDA患者由来H. pyloriと対照患者由来株の性状比較を行った。 DNAマイクロアレイ法によるH. pyloriの全遺伝子の発現比較の結果、本菌の鉄関連遺伝子のうちfrpB1, frpB2, ceuEの発現がIDA患者由来株で有意に低かった。さらに、鉄制限培地中の培養を実施して遺伝子発現を解析したところ、frpB1, pfr遺伝子の発現誘導は全ての菌株において顕著でそれぞれの菌株が鉄制限状態の遺伝子応答をしていることが確認されたが、IDA患者由来株は他の鉄関連遺伝子の発現誘導が認められず、対照患者由来株ではfrpB2, fecA1, fecA2などの発現誘導が認められた。これらの結果はIDA由来株が鉄取り込み機構において、対照患者由来株と異なる遺伝子制御または別の分子を使っている可能性を示唆するものであった。また、IDA患者由来株において全ての菌株がVacA毒素産生性を有しており、空胞化毒素が消化管における宿主の鉄吸収に影響し宿主に鉄欠乏状態を導く可能性が示された。
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