研究概要 |
PBCの診断基準にも入れられている抗ミトコンドリア抗体のエピトープ、EIETDK motifについての本菌での局在はまだ証明されていなかった。NCDO 2227のゲノムは全長1933610 bp, GC content 37.71%で、1707個のORFを持ち、1個のprophageを保有するものの挿入配列、transposonをほとんど持たない特徴を有していた。各種アミノ酸などの生合成酵素、レンサ球菌共通のarbonic anhydrase, pyruvate oxidase, glutathione synthetaseを欠落しており、少なくとも63個のABC transporter systemを保有することから、他のレンサ球菌に比べ、栄養要求性・従属性が高く、炭酸ガス要求性、好嫌気性である本菌の性質を反映していた。PBCの抗ミトコンドリア抗体のエピトープはpyruvate dehydrogenase complexのE2 componentであり、そのエピトープはEIETDKであることが知られている。驚いたことに、本菌はpyruvate dehydrogenase complex自体を欠落していた。そこでEIETDK motifを持つORFを得られたゲノム情報から解析した所、lactose specific PTS system, IIBC component, two component sensor histidine kinase, DNA polymerase II gamma/tau unit, arginyl-tRNA synthetaseにそれぞれ保存されていることが明らかとなった。合併症の無い歯周病由来、PBC患者の歯周病由来、各種病巣由来株、計22株につき、このEIETDK motif ORFを特異PCRならびにタイリングアレイで解析したところ、このmotifはいずれもすべての菌株に保存されており、PBC患者由来株に特有の配列ではなかった。また、病原因子と想定されるintermedilysin,3種類のhemolysin,23種類のLPXTG motif保有cell wall anchor proteinなど100種類のORFにそれぞれ特異的PCRを設計し、様々な由来別の菌株で保有状況を比較検討したが、PBC由来株と他の株との間で有意に保有状況に差が認められる遺伝子は見つけられなかった。これらの事実は、histone-like proteinにしろEIETDK motif保有タンパクにしろ、これらがS.intermediusによるPBC発症の最初の引き金になるものではなく、最初にintermedilysinのようなS.intermedius特異毒素により細胞侵入などが惹起され、宿主によるS.intermedius認識がされ、細胞性免疫が発動された後に、抗体産生が起こってくることを示唆する。
|