研究概要 |
PBC患者歯周病とそれ以外は健常な人の歯周病由来株のhouse keeping gene配列(soda,gyrB,rpoB,dnaJ,tuf,groEL,parC,parE,recN)や病原因子遺伝子の保有状況と一部の配列(hlp,eno,comC,comD,come,srtA)を比較した結果では、残念ながらPBC患者由来株に特有の遺伝的背景、病原因子は認められず、本菌の中でPBCを引き起こす特殊な菌株が存在するという仮説は証明できなかった。一方で、S.intermedius(SI)の全ゲノム解析を進めた結果、レンサ球菌属の他の菌種とは際立った違いが明らかとなった。本菌は酸化ストレス応答の欠落、好気性の効率よいATP産生能の喪失が認められる一方、光合成細菌内でCO2固定を行うcaroboxysomeを構成するmicrocompartment shell protein homolog,炭酸ガス濃縮酵素、ethanolamine/1,2-propandiol利用酵素群のオペロンが存在し、細胞内でcaroboxysome様microcompartmentを形成していた。この炭酸ガス濃縮酵素はAnaerococcus vaginalisのものと相同性が高く、嫌気性菌由来であることが推定された。このことから、SIのエネルギー代謝はレンサ球菌属よりもむしろ嫌気性菌に近い代謝経路を維持しており、本菌が以前に"minute colony streptococci"と呼ばれ、増殖に炭酸ガスを要求することはゲノム解析結果から説明できる。好気的代謝に異常が生じるsmall colony variant(SCV)にも共通点がみられる。SCVは細胞内に侵入してそこで生存し続ける「細胞内寄生菌」の形態をとることが知られており、慢性感染を成立させる要因となっている。SIに表出するsialyl-LewX抗原は胆管上皮細胞に高濃度に発現しているselectinのligandであることから、歯周病から血行性に散布されたSIは胆管上皮細胞にトラップされ、細胞内に持続寄生して慢性炎症を惹起し、これがPBCの発症の引き金になり、gp210と交差反応を示すhistone-like proteinに対する抗体ができると、同時に胆管上皮の破壊を引き起こしてPBCの進行につながることが想定された。
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