病原性細菌である黄色ブドウ球菌やA群レンサ球菌(GAS)などはスーパー抗原(SAG)と呼ばれる種々の疾患の要因となっている強力なT細胞活性化因子を産生する。SAGはこれまでに100種類以上が知られており、それぞれの分子は相同性を示す。このようなSAG分子の多様性はファージなどの移動性エレメントによるSAG分子の菌株間水平伝播とそれに伴う変異の蓄積により獲得されたと考えられるが、その起源、すなわち始祖遺伝子の存在様式についてはまったく明らかになっていない。これまでにGASの12菌株のゲノム解析の知見から、GASの保有するSAGの一つであるSPEGが移動性エレメント以外の染色体上にコードされていることが明らかとなっている。一方、筆者はレンサ球菌のうちLancefield血清型でG群に属する菌株(GGS)のゲノム解析を実施しており、その過程で、同菌がGASとゲノムレベルで64%の相同性を示し、GASと同様、SPEGを移動性エレメント以外の染色体上に保有するという予備的な結果を得た。そこで、本研究では10株程度のGGSのゲノムのSPEG部分を詳細に解析することで、この仮説を検証し、SAGの分子進化の起源を明らかにする。本年度はSPEG部分の配列解析を完了し、SPEG陽性株と陰性株のSPEG部分の遺伝子構成を明らかにできた。
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