病原性細菌である黄色ブドウ球菌(SA)やA群レンサ球菌(GAS)などはスーパー抗原(SAG)と呼ばれる種々の疾患の要因となっている強力なT細胞活性化因子を産生する。SAGはこれまでにバリアント等も含め、100種類以上が知られており、それぞれの分子は相同性を示す。このようなSAG分子の多様性はファージなどの移動性エレメントによるSAG分子の菌株間水平伝播とそれに伴う変異の蓄積により獲得されたと考えられるが、その起源、すなわち始祖遺伝子の存在様式についてはまったく明らかになっていない。筆者らはレンサ球菌のうちLancefield血清型でG群に属する菌株(GGS)の全ゲノム配列を世界で初めて解明し、同菌がGASと高度類縁菌であることを明らかにしている。この類縁性を元にしたGGSとGASのゲノムワイドのシンテニー比較解析、およびSAのin silicoでのシンテニー解析で、レンサ球菌の祖先SAGの直系子孫がSPEGおよびSMEZであること、およびSAの祖先SAGの直系子孫がSELWおよびSSLであることを強く示唆する結果を得た。アミノ酸の同義変異と非同義変異の頻度解析でもこれらのSAGは正の選択圧を受けており、染色体上の一定位置に保持されるのに同選択圧が寄与していると考えられた。またBayes法を利用した事後確率に基づく系統樹解析で、SA由来のSAGがレンサ球菌に移動し、分子進化を遂げることで、現在のSAG多様性が獲得されてきたことも明らかとなった。
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