研究概要 |
メルケル細胞ポリオーマウイルス(MCPyV)につき、MCPyVによる発癌のメカニズムを解明するとともに、診断、治療に役立つ知見を得ることを目的に研究を行った。MCPyVのlarge T、VP1,VP2抗原をGST融合タンパク質により合成し、これらの抗原をウサギに免疫することにより、特異抗体を作成した。メルケル細胞癌のパラフィン切片ではLarge T抗原に対する抗体を使用した際に特異的なシグナルが見られたものの、VP1,VP2に対する抗体では特異的なシグナルは認められなかった。Large T抗原に対する抗体はJCVやBKVなどの他のヒトポリオーマウイルス感染症例では交差反応性は認められなかった。MCPyVのコピー数との比較では、ウイルスコピー数の低いメルケル細胞癌の症例ではlarge T抗原の発現は認められなかった。以上の所見から、メルケル細胞癌では通常large T抗原のみの発現が認められ、VP1,VP2など、他のウイルスタンパクの発現がまれであること、large T抗原の発現がウイルス量と相関することなどが明らかになった。さらに、ウイルス感染実験系の確立のために、MCPyVの全長を含むプラスミドを複数の哺乳類細胞株に遺伝子導入を行ったが、ウイルス粒子の産生は見られなかった。このことから、MCPyVの複製はSV40やBKVとは異なるメカニズムが予想され、MCPyVの感染許容細胞の検索を行う必要性が明らかになった。また、2010年に米国の研究者から、あらたに2つのヒトポリオーマウィルスであるHPyV6とHPyV7が発見されたことから、これらのウイルスとの関連を調べるために検出系を確立した。
|