研究概要 |
近年メルケル細胞癌から発見されたメルケル細胞ポリオーマウイルス(Merkel cell polyomavirus, MCPyV)につき、癌ウイルスとしての病原性を明らかにし、診断、治療に役立つ知見を得ることを目的に研究を行った。本年度は、日本のメルケル細胞癌症例を含む、様々な疾患の病理検体や血液サンプルをMCPyVの免疫組織化学および定量的PCRによりMCPyVを検索した。MCPyVはメルケル細胞癌に定量的PCRで高いコピー数で検出され、多くの症例で免疫組織化学でもメルケル細胞癌の核内にlarge T抗原が検出された。他の疾患で高いコピー数が検出された検体はなく、免疫組織化学でも陽性例は存在しなかったことから、メルケル細胞癌以外ではMCPyVが病因と直接関連しないことが推定された。血液サンプルにおいては健常者の1割程度にMCPyVが定量的PCRで検出され、とくにエイズなどの免疫不全患者では9割程度のサンプルにMCPyVのDNAが検出された。これらの結果から、MCPyVの感染は健常者の間でもまれではなく、ヒト体内におけるMCPyVの複製は宿主の免疫能と関連している可能性が示唆された。また、2010年に発見された新しいヒトポリオーマウイルス(human polyomavirus, HPyV)6,7について、同様の検索を行ったが、エイズ患者の血清でも定量的PCRでの陽性率は1%程度と、検出はまれであった。これは、HPyV6,7の感染が日本ではまれである可能性と、HPyV6,7は皮膚に限定して増殖し、ウイルス血症の頻度が高くない可能性が含まれる。
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