ワクチン療法の基礎となる免疫記憶現象の基本的理解はまだ完全に得られていない。私たちは本研究のこれまでの2年間でNotchシグナルはCD4陽性T細胞がメモリー細胞へと分化した後の維持に重要であると知見を得ている。そこで本年度はその分子基盤を明らかにするとともに有効なワクチン開発に向けた先導的研究を行う。 野生型CD4陽性T細胞とRBP-J遺伝子欠損T細胞を生体内にて抗原特異的に刺激した5日後細胞を回収し、DNAマイクロアレイ法にて発現遺伝子を網羅的に解析した。その結果、RBP-J遺伝子欠損T細胞ではいくつかの遺伝子の発現に影響が認められた。現在、影響が認められた遺伝子についての解析を遂行中である。また、抗体産生に重要である濾胞性T細胞(Tfh)におけるNotchシグナルの役割を検討したところ、免疫後にはCD4プロモーター依存的RBP-J遺伝子欠損マウス(RFF4マウス)でも野生型マウスと同等にTfhが分化することを確認した。しかし、その後経時的に血中の抗原特異的抗体価を観察したところ、RFF4マウスでは野生型と比較して早期に抗体価が低下した。そこでマウスに抗原免疫後抗Notch2アゴニスト抗体を投与したところ、血中抗体価は対照群と比較して長期間高値を示した。この結果はワクチン開発において高抗体価を長期間維持する上で重要な先導的知見であると考えている。今後はより詳細な抗体投与プログラムを樹立していく必要があると思われる。 3年間の本研究においてNotchシグナルがCD4陽性メモリーT細胞の維持に必須であることを見いだすことができた。またメモリーT細胞のNotchシグナルを人為的に操作することによるワクチン有効化の可能性を示すこともできた。
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