本研究の目的は、乳がん及び子宮がんの低迷する受診率を改善するために、日本人女性の検診に対する医療リテラシーの現状を明らかにし、低い受診率の背景にある文化的、心理学的な要因を分析し、さらに個人の価値観や文化的要因を尊重した情報提供手段を開発する、ことにある。 平成21年度は文献調査を行った。また、子宮がん、乳がん体験者を対象としたフォーカスグループ及び個別の聞き取り調査、20代前半の女性を対象としたフォーカスグループ調査を実施した。文献調査については学会発表し、論文としてまとめた。聞き取り調査の結果は平成22年度に論文として投稿する予定である。 文献調査では、国際ジャーナルを対象に乳がん及び子宮がん検診の受診態度に文化や価値観が与える影響に関する文献レビューを行った。乳がんはマンモグラフィー、子宮がんは子宮頸部細胞診を対象とし、1990~2008年のOvid Medline、CINAHL、PsychINFOを用いて検索を実施した。最終的に得られた67件の文献について、受診態度に影響を与える文化や価値観を抽出して分類し、記述的に考察した。 その結果、「がんの予防に関する悲観的な見方」「がんの罹患を運命や神の仕業とする見方」などを内容とする<宿命論>、「性を神聖視する価値観」「性をプライベートなものとする見方」などからなる<性に関する慣習や文化>、「家族を優先する見方」「家族のために自分がいるという考え」などを内容とする<家族に関する文化>、「自分の健康は自分で守るという見方」「検査をしたり話をすることが病をもたらすという考え」などからなる<健康と医療に対する価値観>の4つのカテゴリーが抽出された。 エスニックグループにより受診率に差があり、その要因として文化や価値観が何らかの影響を与えている可能性が指摘されていることから、今回見いだされたカテゴリーにみられるような文化や価値観と日本人女性の検診態度との関連について研究を進める必要性が示唆された。
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