本研究は、インフォームド・コンセントの本来の意味である"説明を理解し、納得した上での自発的な同意"を阻むとされる様々な要因の中で医療者-患者間のコミュニケーションギャップに注目し、臨床現場での有意義なインフォームド・コンセントの実現に還元するとともに、医療スタッフや薬学部生を対象として医療コミュニケーション能力養成のための教育プログラム構築にも寄与することを目的として実施した。 平成21年度は患者の抗がん剤治療に対する意識やインフォームド・コンセントの理想と現実に関するアンケート調査を実施し、抗がん剤治療開始時の医療者からの説明に対する患者の理解度が不安の軽減に寄与している可能性、理想と考えるインフォームド・コンセントと現実にはギャップがあること等を示した。 平成22年度は、抗がん剤治療開始時の説明に関して患者が抱える不安や希望について更に明確化していくため、がん患者に面接調査を行いインタビュー内容について感性分析による質的な検討を行い、治療説明の際には「患者-医療者間の信頼」が重要であることを具体的に示し、臨床現場に還元した。 最終年度にあたる平成23年度は、薬剤師や薬学生のコミュニケーション教育への活用を目的として、SP参加型ロールプレイ研修を実施した。「治療に不安を抱える乳がん患者」を題材としたシナリオを作成し、模擬患者のトレーニングを行ったのち、薬剤師と薬学生を薬剤師役としてSPとのロールプレイを実施した。その様子をビデオで撮影し、コミュニケーション内容についてRIAS(Roter Interaction Analysis)による分析を行った。その結果、薬剤師は患者に対して指示的なコミュニケーションを取りがちな傾向や個人間でのコミュニケーションコードのばらつきが明らかになった。参加した薬剤師からは、SP参加型ロールプレイを行いRIASによる分析結果が還元されることにより、自分自身のコミュニケーションスタイルを見直し患者心理の理解にも役だったとのコメントが出された。現在、患者側からの薬剤師のコミュニケーションに対する満足度や使用コードの違いから受ける印象の差について検討を行っているところである。
|