22年度の研究実施計画を次の3点としていた。それぞれについて実績を記す。 1. 乾燥BCGの基礎研究史 戦後日本で広く使用された乾燥BCGワクチンの基礎研究は陸軍軍医学校において行われており、その研究者の論文は1947年東北大学提出博士論文として残っているが、研究者はその後BCG研究から離れ、後日の朝日賞受賞者の中にも含まれていないことが判明した。 (日本医史学会総会、その他の研究会にて発表) 2. プランゲ文庫調査 メリーランド大学プランゲ文庫に所蔵される被占領下の日本の結核関係文書は139点であり、内41点は結核研究所図書室に所蔵なく、その41点中12点は国会図書館にも所蔵がない。これらの文書を直接調査したが、パンフレット形式の患者団体小冊子や療養指導書であり、GHQの文書検閲と収集が徹底的に行われていたことが確認されるとともに、当時の結核療養の実際の記録として貴重なものが残っていることがわかった。 3. 江戸から明治への時代の転換期における医療環境の変化について この研究は進んでいない。 医療史の研究として、大正から昭和初期に健康保険法が制定された時代背景を研究する中から労働災害の問題や医療保障の問題に近現代の日本がどのように取り組んできたのかが新たな命題として出現した。(日本民族衛生学会総会・医療看護研究会にて発表) 近代の日本社会の転換は過激なものであったが、医療技術の獲得は、ある意味で先行的に起きているように思われる。医療技術が社会化してゆく過程は相当に政治性の強いものと考えられる。文化史・経済史的な研究が今後に残された課題である。
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