鎖国の江戸、明治維新、第二次世界大戦敗戦と日本の近代化は特殊である。この社会に生きた人々を支えた医療者は政治制度と社会の転換の中で混乱を伴いながらも、医療技術の継承と発展を担ってきた。それを可能としたものは出自や教育制度にかかわらず、教養を尊ぶ思想であった。東アジアの辺縁にある国民に儒学的ものがあったことは医療史のうえでは大きい。キリスト教文化圏の欧米の人が日本で蒐集した資料の中に医学的なものは必ずしも多くはないが、文化の異質性と、その技術に注目して集められたものとして価値がある。日本の技術の連続性の延長上に発展した医療技術の光と影の部分が国内と国外にある資料の比較により一部明らかにできた。
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