本邦では体外循環技士は自分だけは事故を起こさない、また心臓外科医は自分の技士は事故がおこってもきちんと対処出来ると考え、トラブル対処の訓練をほとんど行ってこなかった。そのため1度事故が起きると、適切な対処ができないため患者が重篤な障害を受けたり、死に至ることが少なくないことが報告されてきた。本研究の目的は人工心肺の安全性を向上させるためにトラブル対処のシミュレータをデザインし、標準化できる訓練システム・プログラムを開発し、日本の現状にあったトレーニングシステムを確立し、その結果得られた教育効果により心臓血管外科手術の成績を向上させることである。さらには国際語で日本での知見を広く発信することである。 本年度は、(1)訓練プログラムの作成、(2)シミュレーション用人工心肺回路と装置の設計、(3)基本トラブル対処シナリオの作成、(4)安定化装置の動作確認、(5)医療現場におけるリーダーシップ、(6)安全教育におけるコーチング、等を計画し研究を遂行した。 体外循環の事故対策シナリオ実行時における流量および貯血槽レベルをシミュレータECCSIM-Liteで記録した。さらに、トレーニングプログラムの標準化を試みた。体外循環の安全装置は50年間、全く進歩がなかったが、新しいセンシング技術で、より正確に貯血槽のバランスをとることに成功した。安全教育について国際語で書かれた文献の調査を行ったところ、指導者となるリーダー教育が日本では発達していないことが明らかになった。また、体外循環を含めた人工臓器の安全教育を若い頃からおこなうべく高校生のセミナーを行い、好評を得た。
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