オピオイド鎮痛薬の鎮痛効果と副作用の出現には大きな個人差が存在しているため、経験的な匙加減で投与量を決定しているのが現状である。モルヒネはオピオイドμ受容体に親和性が高く、μ受容体と結合し、鎮痛作用を始めとして呼吸抑制作用、縮瞳、催吐作用また依存性など多彩な薬理作用を発現すると考えられている。μ受容体の遺伝子(OPRM1)には20以上の変異が存在しているが、このうち、exonlに認める118A>GのSNPはμオピオイド受容体蛋白の40位のアミノ酸をasparagineからaspartateに変異させる。この118A>Gは、白人でのアレル頻度は10~20%であるが、我々が200名以上の健常者において検討した結果ではアレル頻度は41%と人種差が存在している。また、我々がオキシコドン、フェンタニール投与の癌患者について調べた結果では、これらのオピオイド鎮痛薬による鎮痛効果と遺伝子多型に差は認めなかったが、118G変異を有する患者で悪心・嘔吐、眠気の発現率が有意に少ないことを認めた。さらに、健常人を対象とし、118A>Gホモ型(GG)群と野生型(AA)群においてオピオイド鎮痛薬であるブプレノルフィン静脈投与後の薬物動態、痛覚閾値と同時に副作用(悪心・嘔吐、傾眠)をVAS scale法により経時的に測定したところ、薬物動態には差を認めないものの、痛覚閾値、副作用についてGG群において有意にオピオイドの効果が減弱していた。今回我々の検討により、OPRM1の118変異はμ受容体に対するオピオイド鎮痛薬の親和性を減弱させる可能性が示唆された。
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